The法円坂vol.70 食の安全保障 

食の安全保障                  

弁護士 稲田堅太郎

 昨年は丸三年間継続しているコロナ禍がおさまらなかったばかりか、「モリ、カケ、桜」の問題もあいまいなまま、安倍元総理の死亡による国葬さわぎ、旧統一教会問題、ロシアとウクライナの紛争、オリンピック関連の汚職など、さまざまな出来事が続いた、あっという間の一年でした。

 食糧生産国であるウクライナ危機から世界的な食料危機問題が生じようとしていますが、日本の現在の食料自給率は38%であって、残りの3分の2は海外からの輸入に依存しているため、他人事ではなく真剣になって国としての食料の国家戦略を確立する必要があるのではないでしょうか。

 そうであるにもかかわらず、日本の安全保障に関してウクライナ紛争から台湾有事にかこつけて、過去7年連続で過去最大の5兆3400億円の防衛予算をGDP比2%にあたる11兆円に増額しようとする自民党の方針が出されています。

 欧米では命をまもり環境をまもり国土と国境をまもっている産業である農業を国民みんなで支えるのは“あたりまえ”になっているにもかかわらず、それが“あたりまえ”でないのが日本です。

 日本の農家の所得のうち補助金の占める割合が30%ですが、それに対して

「過保護だ」とか農家保護政策ではないかと非難する人々が日本には存在します。しかしながら欧州では補助金の割合が英、仏で90%、スイスでは100%に近いものとなっているのが現状です。

 消費者が安さだけを求めて海外から安いものが入ればいいという考えでは真の農業政策は成り立たないと思います。

 スイスでは消費者サイドが食品流通の5割以上のシェアを持つ生協に結集して農協なども通じて生産者サイドに働きかけ、消費者が求める品質や栽培方法などの基準を設定、認証して農産物に込められた多様な価値を価格に反映して消費者が支えていくという強固なネットワークが形成され、価格に反映しきれない部分は全体で集めた税金から対価を補填するということで、これは単なる保護ではなく安全保障を担っていることへの正当な対価であるということです。(鈴木宣弘「農業消滅」平凡社新書)。

 このような日本の貧弱な農業政策の中で、九州において農家の皆さんと協力しながら無農薬-循環型農業に力を入れておられる岡山フードサービス株式会社の御努力には頭が下がる思いで一杯です。